前編|松本理事長×日高|固定概念に捉われない社会福祉法人経営

前編|松本理事長×日高|固定概念に捉われない社会福祉法人経営
CONTENTS

利益を追求し地域に還元する社会福祉法人の経営改革
〜人的資本重視の経営の推進〜  

社会福祉法人として前例のない改革を進めてこられた福知山学園の皆さまとともに、当時、変革に向けたご支援をご一緒させていただいた日々が今も鮮明に思い出されます。今回、福知山学園の松本修理事長様が「『公金頼み』と決別する 社会福祉法人の正しい経営」と題する書籍を発刊され、社会福祉法人業界に対する想い、そして福知山学園の将来を見据えた経営改革の方向性などを熱く述べられております。その経営改革の一部をご一緒させていただいた当事者として今回、書籍発刊の想いや当時の振り返り、そしてその後の変化などについてお話を伺ってまいりました。
※掲載社員の仕事内容・部署は取材当時のものです

社会福祉法人としての利益の追求 

日高 

まずは「『公金頼み』と決別する社会福祉法人の正しい経営」ご出版おめでとうございます。書籍を拝読し改めて革新的な取り組みを実現されている組織だと感じております。社会福祉法人という枠組みを越え一般企業にも通じる考えが随所に書かれており一般企業の皆さまにも是非読んでいただきたい書籍とだと感じました。 

松本理事長

ありがとうございます。書籍でも紹介している考えですが、私たちは日々の経営におけるコストについて、きちんと出所を理解することを徹底しています。その理由は私たちが非営利という優遇税制の恩恵を受けることができる社会福祉法人だからこそ、「どこからそのお金が出ているのか」そして法人のステークホルダーに対して「何にお金を使い」、「利益を生み出しているのか」を説明する責任があると考えるからです。それらを意識し収支を徹底して管理することが中長期的な成長にも繋がると考えています。 
ちなみに今、お話しているこちらの建物は最近リニューアルしたのですが、公的な支援は受けず当法人の利益で賄える範囲でリニューアルを実施しました。優遇税制を受けている社会福祉法人だからこそ獲得している利益を含めきちんと運用していくことがとても大切だと思っています。 
営利と非営利、それぞれの概念を踏まえて法人経営を考えると、その意義と意味がものすごくよく分ります。営利法人が様々なことを考え法人税も支払いながら利益を出す努力をすることと、非営利である我々のような社会福祉法人が収支を意識した経営をし、優遇税制を受けつつ利益を出し再投資することは実は同じことだと思うんですよね。 

日高 

おっしゃる通りだと思います。書籍にも福祉と経営、それぞれの知見がなければ難しいというお考えを述べられており、実際に松本理事長はご自身で様々な経営に関する書籍やセミナーによるインプットや専門家の活用等を通じて知見を常にアップデートされておられますよね。書籍の中で営業利益目標を営利企業に合わせた10%前後で設定されていた点は印象的でした。医療・福祉業界における利益水準と比較すると非常に高い目標設定のため、並大抵の努力では達成することはできない目標だと思います。理事長が感じている目標を達成するための勘所などがあればお伺いしたいです。 

松本理事長

1番大事にしていることは、ぶれないことです。私はリーダーとしてこの組織を牽引する存在であり、その私が発信する内容が500名近い従業員に影響を与えると考えると簡単にぶれるような考えは言えない、という気持ちがあります。 
ただ、恐らく従業員の皆さんは私が何かを発信するとまた大変なことが起きる、と思っていると思います(笑)。というのも私はやると決めたらとことんやるタイプで、厳しさもありますし、中途半端な形で終えることはありません。でも、それくらいの感覚を持ってもらっている方がある意味、組織として団結し1つの目標に向かうことができるとも思っているので、これからも変わることがない考えだと思っています。 

従業員の働きやすさと地域貢献 

松本理事長

多くの企業で働き方改革や残業規制といった取り組みが当たり前に行われている昨今、私たちも「福知山学園バリューアッププラン」として改革を推進してきました。その背景には単に従業員の働き方を変えたいという想いだけではなく、ひいては利用者様への還元にも繋がると信じているからです。 

日高 

たしかに、公共的使命感を掲げている法人はたくさんありますが、使命感だけでは成り立たないのが現実ですし、何より「持続させる」ことが一番大切なことだと思います。しかし、持続させるためには熱量だけではなく、利益など「経営を継続させる仕組み」が必ず必要で、そのお考えが根底にあることが「従業員ファースト」と繋がっているのだと感じました。「従業員ファースト」の考えやそのうえで、利益を獲得することが「利用者の幸福」そして「地域の持続性」につながると。今のお話もそうですが理事長とお話させていただく度に、地域の人々の暮らしや命を大切にされているお考えを言葉の端々にとても強く感じています。だからこそ、持続可能な経営体制を構築してこられたことが改めて理解できました。ちなみに、BCP(事業継続計画)だけでなくDCP(地域継続計画)も視野にいれた経営という発想も書籍にありましたが、「地域の持続性」を意識しているからこその視点だと思います。 

松本理事長

私は従業員の皆さんが福知山学園を選んで、働いてよかったと思って欲しいと思い本学園を経営しています。逆に、こんなところ来なければ良かったなどと思わないように、変えるべきことはこれからもどんどん変えていきたいと考えています。これまでの取り組みについては現場で主導したメンバーからこの後詳細を話してもらおうと思いますが、働き方の改善に取り組んだ結果として年間の平均残業時間は8時間程度となっており、大幅な改善に繋がりました。そして、今もなお労働環境の改善に取り組んでいます。例えば、労働環境の調査を改めて実施しようと考えていて、どのように進めるべきか、どんなポイントに注視すべきか、を検討しています。

社会福祉法人としての未来 

日高 

これまでにない社会福祉法人として様々な革新を続けてこられましたが、今もなお新たな挑戦を進められていますね。今年、中小企業庁が「ローカル・ゼブラ企業」の創出を提唱し、日本でもそのキーワードや存在が認知されるようになってきました。この「ローカル・ゼブラ企業」は各地方で課題となっていることを解決し、かつ収益性も確保する、という2つの要件を充足する地方で不可欠の存在となっている企業として定義されています。この話で真っ先に思い浮かんだのが福知山学園でした。企業ではありませんが、まさにローカル・ゼブラと同じ考え方を社会福祉法人という枠組みの中で、いち早く実践されてきたと感じているのですが、いかがでしょうか。 

松本理事長

私がこれまでやってきたことは、基本的に定点観測で指標を追い続け、PDCAを繰り返す手法でした。この経験を通じて再認識したことは、私たちのような社会福祉法人は一過性でパンと花火のように打ち上げて散るべき企業ではない、ということです。持続性がもっとも大切であることがローカル・ゼブラの考え方と近いのだと思います。しかし、一方でユニコーン型と呼ばれるビジネスモデルにも憧れはあります。私たちが中長期的に利益を獲得し続けることを考えた際に、例えば非営利法人としての「収益事業」を増やすための投資力をつける必要もあるのではないかといった、これまでとは異なる手法も取り入れないといけなくなるタイミングがどこかでくるかもしれないと思っています。こういった「変化を恐れない新しい取組み」も持続性を実現するうえでは必要なことだと考えています。 

日高 

たしかに、御社が持続的な成長を実現する取り組みを広く展開していくことが、地域の持続性に繋がることは間違いないですね。例えば、セントラルキッチンの建設の発想はまさにこの考えを体現されていると思いました。従業員や利用者の皆さま、そして、食品業者といった様々なステークホルダーに良い影響を波及させている素晴らしい取り組みだと感じています。単に「あったかい・美味しい」ごはんを提供するというだけではなく、従業員の方々がそれぞれの施設で料理を作る手間や労力を考えた時に、集約し効率化する発想、そして理事長の場合は単なる効率化を目指すのではなく、清潔感やデザイン性などの視覚的にもポジティブな影響を与える工夫をされています。その結果、調理をする方々も働きやすく笑顔がうまれ、施設で運営される方々にも利用者への配慮する余地がうまれ、ひいては利用者の方々に美味しい料理と魅力的な環境を提供できる。そのこだわりが細部にまで行き届いていることが素晴らしいと感じました。 

松本理事長

セントラルキッチンの件もですが、私の考えとして過去やってきたことを「そのまま」踏襲し続けることは悪だと思っています。世の中にはたくさんの老舗企業やブランドがありますが、何も変わらず踏襲しているわけではなく、ビジネスモデルの絶え間ない変革といった歴史がきちんとあって、今に至っているんだと思うんです。そのうえで大切な「軸」「核」といったものを守り続けた企業のブランド価値は下がらないはずだと思っています。よって変えてもよい部分か否かは慎重に考えないといけませんが、変わり続けるための柔軟性も必要なんですよね。部分最適ではなく全体最適を見据え、これからも新たな挑戦を続けていきたいです。

日高

私たちは今後、福知山学園や理事長とご一緒させていただいた経験を踏まえて先述の「ローカル・ゼブラ企業」創出のご支援を強化、あるいは「創出」自体も取組みとして検討していきたいと考えています。今後の学園のますますのご成長、ひいては福知山という地域の更なる活性化を確信しております。本日は本当にありがとうございました。

変革に向けた現場での取り組み